読書録:「鷲と虎」佐々木 譲
鷲と虎
佐々木 譲
角川文庫
\838
2001年9月25日初版発行
2006年4月27日読了
化粧カバー裏面のあらすじより。《1937年7月、北京郊外で軍事衝突が発生。戦火はたちまち広がり、日中両国は全面的な戦争に突入した。帝國海軍航空隊の麻生哲郎は勇んで中国へと向かい、アメリカ人飛行士デニス・ワイルドは中国義勇航空隊の一員として出撃する。上海、北京、南京、漢口、重慶。長江上空に展開する戦闘機乗りたちの熱き戦い。やがてふたりは互いを、名前を持った敵として意識するようになった……。中国の大空を翔けた男たちの勇姿を見事に謳いあげた航空冒険小説。》
う~ん、面白かったのは確かなのだが、どうにもうまくまとめられない。登場する飛行機が、九六艦戦とI-16以外あまりワタシ的に馴染みのないものばかりだったというのもあるかもしれないが、やはり時代が日中戦争であるということで時代背景として描かれる“事件”がワタシ的にどうにも生々しすぎて、純粋に物語として楽しめなかったのだと思う。主人公が日本の軍人であるにもかかわらず考え方が若干アウトロー的なところがある(これは佐々木作品に主人公格で登場する日本の軍人に共通するものであるが)ことを強調するためなのかもしれないが、全体的に著者の描き方が若干中国寄りになっているように感じられて仕方がなかったことも影響しているのだらう。
その象徴的な例として、例えば通州事件の発端が日本陸軍が故意に行った空襲であると受け止められる描き方をしていたり、日本陸軍による南京攻略の時に“大虐殺”のようなことがあったと思わせる描き方がされていたり、ということが挙げられる。
前者については、1990年には通州事件が中国側による謀略であったことが明らかになっていたにも関わらず、1998年に単行本が刊行された本書でそのような描き方になっている。また後者については、ニューヨークタイムズ誌の記者ティルマン・ダーディン(実在の人物である)が、“虐殺”の現場を撮影しその写真をアメリカ本国に持ち帰る途中で、協力してくれたデニスらにその写真を見せる、という場面があるのだが、ダーディンが写真を撮ってアメリカに持ち帰ったという事実は見当たらないばかりか、彼は中国共産党のシンパとして日本に不利な記事を書いてアメリカに送っていたという説すらある。そしてそのダーディンですら、日本が南京で大虐殺と呼ぶに値する非道なことをしたという記事は送っていないのである。ワタシのようなシロウトでもすぐに材料を集められるこのようなことを、たとえ8年前であったとはいえ著者ほどの人が調べられなかったとは思えないのだ。
というわけで、なんだか佐々木作品を純粋に楽しめなくなりそうな気がしてならない。困ったもんだ。ヽ(`Д´)ノウワァァン!!
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