読書録:「さらば国分寺書店のオババ」椎名 誠
さらば国分寺書店のオババ
椎名 誠
新潮文庫
\466
1996年9月1日発行
2006年5月18日読了
著者はこの作品で、自らの文体を「昭和軽薄体」と称しブンガク界に躍り出た。いわゆる“言文一致体”なのであるが、他の作家との最大の違いはその優れた言語感覚であらう。その後特にSF作品において著者独自の形容詞や名詞が縦横無尽に駆使されるのであるが、それはデビュー作であるこの作品においても、すでにその先駆けを見ることが出来る。
そんな文体で綴られたこの作品は、1979年に情報センター出版局から刊行された時には「スーパーエッセイ」と銘打たれていた。ワタシは高校時代、この作品にガッコの図書室で出会い、“スーパー”の肩書きに恥じないそのあまりの面白さに他のシーナ作品(「哀愁の町に霧が降るのだ」など)とともにガシガシと読んではフーッと満足気なため息などついていたものであった。
で、内容はといえば国分寺駅前の古書店「国分寺書店」の主人であるオババとシーナ青年の心温まる交流、というものでは全くない。街で見掛ける制服関係の職業の人たちに敵意を燃やしつつ、国分寺書店に持ち込んだ本の買い取りを拒否されて怒り狂うシーナ青年が、密かな憧れを抱いていたマスコミ関係者のパーティで知ったそのあまりにも痛い実態に愕然とし、制服関係の人たちの真面目に仕事に取り組む姿勢を見直しつつ、国分寺駅前を訪ねるとすでに国分寺書店は姿を消していた、という話である。実は本文中でオババとシーナ青年は一言も会話を交わしていない。そしてオババに怒り狂っていたハズなのに、いざいなくなってしまうとその喪失感に打ちのめされるシーナ青年なのであった。ゲラゲラ笑わせつつ、最後の2行でしんみりと〆るその技は見事。著者がその後ベストセラー作家になったのもむべなるかな、である。
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