読書録:「生還への飛行」加藤 寛一郎
生還への飛行
加藤 寛一郎
講談社文庫
\544
1992年8月15日第1刷発行
2006年11月11日読了
著者は飛行機マニアの間では名高い東大名誉教授。飛行機事故の本は数あれど、間一髪で生還したパイロットの話を集めた本はあまり聞いたことがない。ということで、かな~り以前に単行本で読んでいた本書を改めて読んでみた。その瞬間、彼らパイロットが取った行動は後から考えれば理に適っていたわけであるが、中には机上のセオリーとは反対の行動もあって、彼らが理屈だけで行動したわけではないことがよくわかる。
中でも印象的だったのがハチロクブルーのソロ機だった藤原氏のケース。1960年代に行われていたソロ機のテイクオフロールの時、離陸直後にロールを始める高度が低いと、ロールが終わるときには高度が低すぎることになる。1965年11月24日には同じケースでソロ機が墜落、パイロットの城丸一尉(当時)は殉職している。ロールを終えた時に高度を取ろうと操縦桿を引いて機体を引き起こしたのであるが、その角度が急すぎて失速してしまったのである。1968年1月9日、藤原二尉(当時)の操縦するソロ機が同じ状況に陥った。ところが、ロールを終えて高度が低すぎると感じた時、10人が10人操縦桿を引くであらうその状況下で藤原二尉は操縦桿を“押した”のである。その結果機体に推力が付き、両翼下の増槽と尾部の排気口部分を地面に擦りつつもなんとか墜落せず高度を取ることができたのであった。この行動について藤原氏は「体が覚えていた」「考えるような状態ではなかった」「体のどこからか指令が走った」と述べている。機体が沈み地面が近づいてきて、草木の一本一本が見えるような状況下で、とっさに機体を地面に向けたこの行動は、本能という以外説明のしようがないであらう。
このような興味深いエピソードが多数収められた本書は、「空で生き残るための条件」を探る著者の旅の集大成でもある。飛行機マニアならずともお薦めの一冊である。
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コメント
つい先日、ビデオの整理をしていて、F/A-18がループに失敗して地面に突っ込んだ、有名な事故のテープをハケーン^^;
たぶん上昇するときの速度が不足していたために、ループの頂点が低くなってしまい、そのまま無理に引き起こそうとしたために、失速気味になってしまったらしいです。機体の向きは30度くらい上向きなのに、航跡は逆に30度くらいの角度で降下してましたから。
幸いパイロットは負傷で済んで、その後復帰しリノの有名な「赤いシルバースター」なんかを操縦してますが^^;
投稿: TOM | 2006.11.22 02:35 午前
その事故ってパリショーでしたっけ? その場合でも、いったん地面に向かって突っ込んだらどうなってたんでしょ。てか、普通の人はそういう機動はしませんからねぇ。藤原氏の事例で、インタビューの時に「ああいう時は10人が10人操縦桿を引く」と言ったのは、同席していた原田信夫氏(藤原氏がソロをしていた時のブルーの編隊長)だったそうですし。それにF/A-18ならハチロクとは射出座席の性能が段違いですから、あれこれ考える前に射出してしまう、という選択もアリでせうしね。
投稿: KWAT | 2006.11.22 05:10 午後
パリではなくアメリカのどっかでした^^;
でも、いろんな方向から撮ったビデオが残ってますからそこそこ有名なショーだったのかも。
墜落するよりかなり前に機体は仰角とってましたから、パイロットはたぶん上昇に移りつつあると思っていたのでしょう。接地はテールからで、一瞬火を吹きましたが炎上することなく、そのまま地面を滑って停止しました。
確かにループの途中で逆に地面に突っ込んだら、スピードが乗って急激に高度を失うことはなかったかもしれません。横から見た映像だと、ループの後半は機体の向きと飛んでいる方向が全然違いましたから。
投稿: TOM | 2006.11.23 01:40 午前
海兵隊エルトロ基地でした^^;
投稿: TOM | 2006.11.24 12:01 午前
ふむそ、エルトロでしたか。マリンコのホーネットネストぢゃないですか。パイロットはあとで仲間から散々冷やかされたんだろーな。(^◇^;)
投稿: KWAT | 2006.11.24 01:32 午前