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2010.02.19

読書録:「からくり民主主義」高橋 秀実

からくり民主主義
高橋 秀実
新潮文庫
\590
2009年12月1日発行

2010年2月17日読了

 民主主義の「民」とは誰なのか。国民の声の「国民」とは。世論とはいったい誰の意見なのか。著者はそれを探るべく、様々な様々な場所に赴き、様々な人の話を聞く。世界遺産・白川郷や“自殺の名所”青木ヶ原樹海に住む人々、諫早湾干拓問題や沖縄米軍基地問題の裏表・・・そして著者は、人に会い、話を聞けば聞くほど訳が分からなくなり悪戦苦闘するのだった。

 一人一人に話を聞いてしまえば、訳が分からなくなるのも当然の話。一人一人で抱える事情が違うのだから。諫早湾干拓問題であるならば、有明海の漁民は反対するが地元の町の農民は賛成していたりする。干拓のお陰で潮流が変わって海苔は不作になったかもしれないが、地元の町は堤防が出来たことで水不足が解決したのだから。沖縄米軍基地問題では、返還して欲しい人もいれば返還されると困る人もいる。下手に返還されても土地の公図は戦争で焼失しているので、権利問題でゴタゴタするのである。同じ町でも軍用地主とそうでない人とで対立があり、あるいはそんなこととは全く関係のない代々の仲違いを、マスコミが勝手に“反対派”と“賛成派”の対立にすり替えたりする。また基地反対運動は軍用地主が地代を値上げするいい口実になっていたりもする。ことほど左様に『目の前の現実』は混沌としているのである。

 では結局、「国民の声」とか「世論」とかは誰が造り出すのか。それはやっぱりマスコミなのではなかろうか。そしてそれはマスコミが「絵になる」「話題になる」と考えることばかりを取り上げる結果であることが往々にしてあるのだった。諫早湾干拓問題についても、沖縄米軍基地問題についても、それに賛成し、あるいは受け入れている地元の人々の意見などマスコミで大々的に取り上げられたことが果たしてあっただろうか。賛成する側はアピールする必要などないから、マスコミ的には「絵にならない」のである。そうして、マスコミから情報を得る他の地域の人々は、マスコミが報道することが全てであるかのように錯覚してしまうのである。「世論調査」の結果というものも、そういったマスコミの“報道”に影響を受けていることは否定できないことであろう。

 そういう「国民の声」とか「世論」とかが、我々の「民主主義」の基になっているとしたら、それはものすごく不幸なことなのではなかろうか。

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コメント

毎日垂れ流される定型文のニュース
「あわや大惨事」 「奇跡的にも…」 と繰り返される言葉

マスコミの方々が声高に叫ぶ 『言論・報道の自由』 は、なんだか安っぽく感じてしまいます。(^^;)

スポンサーや利益が番組・紙面の構成要素に影響を与えている今のマスコミ報道に、本質的な公平性を求めるのは無理なんでしょうねぇ・・・

投稿: ふとん | 2010.02.19 12:24 午後

 マスコミの方々が声高に叫ぶ 『言論・報道の自由』 は、あくまでもマスコミにとって都合が良い時だけに使う言葉ですから。この本の中でも、辺野古の集会所で土地の老人に取材していた著者のところに、たまたま「ニュース○3」の当時のキャスター、K野M代氏がインタビューに来て、著者に向かって「シッ!」と黙るよう命令したのでカチンときた、という下りがあります。自分たちの『言論・報道の自由』は著者のそれより大事なのだ、ということなのでせう。

 マスコミも堂々と「ワシら色付いてるけんねー、そのつもりで見たってや」と言ってくれればいいのですが、なまじ「公平・公正」などとほざいているから始末が悪いのですよ。だから受け手の側が「そんなもんだよね」と思っておかないとイカンのですが、如何せん、そんなこと学校じゃ教えてくれませんからねぇ。

投稿: KWAT | 2010.02.20 02:28 午前

学生時代にアメリカの某ネットワークの東京支局でバイトしていました。特派員が帰った後深夜まで通信社のニュースをモニターして重大事件があったら知らせたりするのも仕事だったんですが、「パキスタンで大洪水、死者100名以上」なんてニュースを知らせても「そんなの画像ないだろ?だったら無視無視」なんて感じでしたものねぇ。逆に大したニュースじゃなくても面白い画像があれば取り上げてたし。特に米ネットワークだから海外ニュースなんてそんな位置づけなんだろうけどそれにしても「ああ、テレビ報道の基準ってやっぱりそれなんだな」と痛感しました。

それでも彼らは当時(80年代)かなり報道のコンプライアンスには気を使っていてインタビューで答えを誘導してないかとか、演出をしてないかとかかなり神経質にやっていて「日本のテレビ(特に間借りして友好関係にあった●BS)の報道はデタラメ」と言っていましたねぇ。50歩100歩なんですが。

投稿: ジェットあわび | 2010.02.23 10:36 午前

 視聴率至上主義とでも言うんでせうかね。マスコミがとにかく耳目を引くモノでないと取り上げようとしないのは、今に始まったことではないにせよ、いったいこの国のマスコミはいつ「ジャーナリズム」を身に付けるのでせうかね。江戸時代の瓦版屋から全然進歩がない。(~。~;)

 既存マスコミとはまったく利害関係がない、第三者機関によるマスコミ審査機構ができてほしいもんですよ。

投稿: KWAT | 2010.02.25 12:40 午前

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