読書録:「乱気流」ジャイルズ・フォーデン
乱気流(上)(下)
ジャイルズ・フォーデン
訳・村上 和久
新潮文庫
\552(上)・\590(下)
2010年11月1日発行(上・下とも)
2011年2月12日読了
「史上最大の上陸作戦」としてあまりにも有名なノルマンディ上陸作戦、その作戦当日(Dデイ)の天候を5日前に予測する。今ならそれほど外すこともないだらう任務だが、1944年当時は困難を極めるものだった。天候の予測に大きく影響する大気の乱気流の謎に挑む科学者や気象予報官たちの闘いを描く・・・という物語ではあるのだが、下巻の1/3くらい(全体でいうと3/2くらい)までは主人公の青春記がダラダラと綴られる、といった印象である。しかもこの主人公が生真面目だがイマイチ不器用で失敗ばかりなもんだから、全体的に暗~いお話になってしまっているのである。
そんな話が俄然生き生きと動き出すのが、主人公が実際にDデイの気象予報を行うチームに加わってからである。米英双方の気象予報の関係者(メンバーには役人も軍人もいる)同士の丁々発止のやり取り、それを取り纏めてアイゼンハワーを始めとする実際に作戦を行う軍人たちに伝える人物の苦悩など、実に興味深い。主人公以外の登場人物はほとんど実在した人であるあたりが、物語にさらなるリアリティを与えている。報告を受けてアイクがDデイを一日遅らせる決断をする辺りは本書のクライマックスであらう。その一日遅らせたDデイ当日の天候は必ずしもいいとは言えなかったわけだが、前日も翌日も作戦を行うことが不可能なくらいの荒れ模様であったし、次の候補日もまた悪天候だったわけだから、結果として主人公たちは歴史を作る大仕事を成し遂げたのだった。
なお、物語の最後の最後で、なぜ話の前半が陰々滅々としているかの理由も明らかにされるので、読まれる方はとにかく我慢して(笑)読み進めるべし。
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