読書録:「音の影」岩城 宏之
音の影
岩城 宏之
文春文庫
\552
2007年8月10日第1刷
2011年11月5日読了
学生時代にやっていた自転車に関する本の次は、高校時代にやっていた吹奏楽に関する本。直接の関連というわけではないかもしれないが、クラシックを聴くようになったのは吹奏楽をやっていたからなのでヨシとする(笑)。
本書は著者が取り上げたクラシック音楽の作曲家を、名前のアルファベット順に並べてウンチクを語る一種のトリビア本なのだが、何しろ著者が著者なだけにドヤ顔で語るなんてことするはずもなく。思い入れのある作曲家(ベートーベンとかブラームスとか、個人的に付き合いのあったメシアンとか)については何週にもわたって回を重ねるのに(元々が「週刊金曜日」の連載)、モーツァルトには「畏れ多すぎて」触れてなかったりする、その偏り具合がまず可笑しい。さらにいたずら好きな著者らしく架空の人物まで入っていたりするが、もちろんモデルはいるので如何にもエピソードがもっともらしくて、最終章の和田誠氏との対談を読むまではそれに全く気がつかなかった。
本書で「へぇ~」ボタンを連打したエピソードはたくさんあったが、ミリオタ的にはナチスが残した「負の音楽遺産」の話など興味深かった。ヒトラーがワーグナーのファンであったことは割と知られている話で、そのせいで年に一度ニュルンベルグで開催されたナチス党大会の開幕に「ニュルンベルグのマイスタージンガー前奏曲」を流したり、またいわゆる「ヴァルキューレの騎行」(映画『地獄の黙示録』で使われたアレ)もナチスの重要な放送には必ず使われていたため、戦後は戦争犯罪曲として扱われていたのだが、それでも上演禁止扱いにはされなかった(正式なおめでたい儀式の時には演奏しなかったそうだが)。ところが、リストの「前奏曲(レ・プレリュード)」は、毎日放送されていたナチス宣伝放送のテーマに使われていたため、ドイツ人にはかなり強い拒否反応があったそうで、これがライプツィヒのゲバントハウス・オーケストラによって“解禁”されたのが1975年、しかも指揮者として著者が選ばれたのは「ドイツ人でもヨーロッパ人でもなかった」からだそうだ。
ついでにもうひとつ。1980年代にモスクワ放送交響楽団の常任指揮者を務めていたゲンナジー・ロジェストヴェンスキーは、日本海海戦で我が国連合艦隊に敗れたいわゆるバルチック艦隊の指揮官ジノヴィー・ロジェストヴェンスキー中将の曾孫だそうだ。
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