読書録:「戦史の証言者たち」吉村 昭
戦史の証言者たち
吉村 昭
文春文庫
\437
1995年8月10日第1刷
2012年10月1日読了
6年前に亡くなった著者の作品には、太平洋戦史を扱ったものが多数ある。著者はあとがきで「最も力をそそいだのは、証言者を探し求めて話を聞くことであり、公式記録は、それらの証言を裏づけるものとして使用した。つまり、関係者の証言が主であり、記録は従であった」と書いているように、生存者の証言を重視した。本書は、その聞き取り調査で収録した膨大なテープの中から、一部を抜粋して活字に起こしたものである。聞き取りを行った時期は昭和40年代の前半で、今となっては故人となってしまわれている方がほとんどであらうから、本書はいわば『戦争を内側から体験した人』の貴重な証言集といえるだらう。
本書は「戦艦武蔵の進水」「山本連合艦隊司令長官の戦死」「福留参謀長の遭難と救出」「伊号第三三潜水艦の沈没と浮揚」の4つの出来事について扱っている。それぞれ、武蔵の進水を担当した三菱造船の技師、山本長官機の護衛に付いた零戦の操縦士、福留参謀長を救出した陸軍将校などから実に興味深い話を伺っているが、ワタシ的な白眉は伊号第三三潜の沈没事故にまつわる証言であった。奇跡的に生還した二人の乗組員それぞれと、戦後同艦の引き揚げを行ったサルベージ会社の技師、それにサルベージの模様を取材し浮揚直後の艦内の写真撮影をした新聞記者の4名に話を聞いているのだが、フネの中と外からの証言を重ねることで、この事故と引き揚げの様子が目の前にありありと浮かび上がってきた思いであった。
白状するとワタシ、この不運に取り憑かれた(としか思えない)伊号第三三潜の事故のことをこれを読むまで知らなかったのである。ここまで詳細に証言を得ているのなら当然著者が作品にしているであらうにも関わらずなぜ読んでいなかったのかと思って調べたら、当該作品は「総員起シ」(新潮文庫)という短編集の表題作だったので、短編だからと思って読んでいなかったのであった(爆)。実に迂闊なり。古い作品なので大きい本屋に行って探してみないと(アマゾンでも扱ってるけどそれは最後の手段)。
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